結局誰だったんだろう…

「あら〜大きくなったわね〜」

綺麗な白色の髪、よく笑う人の皺つき、デザインよりも機能性を重視したであろう暖かそうなジャケット、膝の曲げ伸ばしが楽そうなパンツ、紐のついていないスニーカー。横を見やると杖をついたおばあさんが立っていた。

 私はこの女性を知らない。だからといって10代の記憶力の方が優れていると呑んでかかってはいけない。相手は未知数を秘めている。

「あの時の苗は早生樹だったのね!」

ページの余った記録帳に見えないパラパラ漫画を映し出しては、戻り、映し出しては、戻り。日に透かしてみてもみたがインクは浮かび上がってこなかったようだ。    結局前の記録を1枚めくって今日の観察をはじめた。幼稚園でこっそり友達に食べてもらっていたヤサイはもう食べられるようになったし、補助輪が無くても自転車に乗れるようにもなった。ローマは一日にしてできました!と。 彼女にとっての私も、同じく未知数を秘めていたのだ。

 

右の肩をすくめ、下手っぴなウインクをピースで挟む。私はカメラを向けられるといつもそのポーズをしていた。見切れていただけでその横に、もしかしたらカメラ越しに。

「どうしていっしょにとらないの〜?」、いつも笑顔ではぐらかせて。

"私はもう曇っているからよ。貴方はこれから先たくさんの鏡を集めるの。それをどう使うかは自由なんだけれどもね、正しいと思った鏡の中の貴方を1番輝かせて欲しいの。"

彼女は私の人生に登場しておきながら、エンドロールに名を連ねないつもりだったらしい。だって忘れてしまうでしょ?と。  

これから出会う人達よりもずっと前から大切な人には既に出会えているのかもしれない。その人からなんらかの恩恵を受けて私が形成されたのだとしたら、感謝の気持ちくらい言わせて欲しかったな。とも思う。

ps

今朝、知らないおばあさんに話しかけられていつもの電車を逃しました。彼女が懐かしそうに話しかけて来るものですから、私って忘れっぽいし、会ったことがあるのかもしれない!この人と私はどんな関係だったんだろう?と考え出したら、知らないおばあさんのことがとても愛おしく感じられました。

私は忘れてしまうかもしれないけど、誰かの記憶に、写真に残れていたらそれでもいいな。そう思うわけです。